暴走族、血が騒ぐのは中高年OBだけ

名古屋市内の国道1号で昨年暮れ、暴走族の一団に勝手に加わり、軽トラックで信号無視や低速走行などの暴走行為をした無職の男(57)が愛知県警に道交法違反で逮捕された。男は元暴走族で、昔の血が騒いだとみられるが、実は暴走族は年々減少の一途で、「昔の風物詩」になりそうなのだという。

警察庁のまとめによると、全国の警察が2009年に把握した暴走族の構成員は前年比9.2%減の1万454人で、統計が残る1975年以降で最少となった。11年連続の減少で、最多だった82年の4分の1以下という。摘発人数も10%減の3万2170人で、暴走族が過去の存在となるのも時間の問題のようだ。

「構成員という呼び方が示す通り、暴走族も一般の会社と同じピラミッド組織。チームの総長にあこがれて、総長のため、チームの旗のため、自分の“出世”のために暴れるという美学を、今の若いヤツらに強制しても無理だよ。ゾクがすたれるのは時代の流れだね」

首都圏の暴走族組織に所属していた会社員(36)は、苦笑い混じりにこう話す。暴走族の構成員数がピークだった82年は、「横浜銀蝿」「なめ猫」「積木くずし」の流行からも分かる通り、古典的な不良の時代。表面的には体制に従い、仲間とのつながりはゆるく、個人が趣味を追求する現代とは対照的だ。

長年、暴走族対策にかかわった警察関係者も「ちょっと前まで関東近郊の警察署の中庭には、ゾクから押収した改造バイクが判で押したように並んでいたものです。でも最近は、50−125CCクラスのミニバイクが関の山。当時からみればかわいいもんで、われわれとしては歓迎すべき傾向ですよ」と笑う。

暴走族関係者が愛読するモーター雑誌の編集者も「若い人たちの間では、暴走族というより『珍走団』という名称が一般化しています。言葉の響きからして、いかにも頭が悪くカッコ悪い印象。これがもっと浸透すれば、暴走族自体が過去の伝統芸能みたいな存在になっていくんでしょうね」としみじみ語る。昨年5月、沖縄県警宜野湾署は、暴走族を「ダサイ族」と命名して話題になった。警察や公的機関が公式に「珍走団」と命名すれば、“絶滅”はさらに早まるだろう。

一般市民としては歓迎すべきことだが、多少の懸念を示す専門家もいる。教育評論家の尾木直樹氏はこう話す。「彼らの迷惑行為を肯定するものではありませんが、当時のように不満の発露が分かりやすかった時代に比べると、現代の子供たちは個々が分散して、不満に直面すると地雷のようにキレてしまう。現代のほうが、ある意味危険とも言えます」

逆に最近は、冒頭のような30−50代の“OB”たちが、「旧車会」を名乗って集団走行するケースも頻発している。かつての青春が風前のともしびとなったことに対する、せめてもの抵抗なのか。